5115STUDIO BLOG

縦横無尽・全天候型イラストレーター・モトムラタツヒコの日常。

能古島の思い出・4 −一休、あるいはギンナンハゼの冬−

 風呂場でバリカン片手に素っ裸、忍び込む隙間風の冷たさに、10日に一度のこの『儀式』も、すっかりシンドイ季節になった。
 刈り取られた髪の毛どもは、熱いシャワーによってまるで砂鉄のごとく一箇所に集められ、排水口へ消えてゆく。さっきまで、俺の一部でしたのに。
 そうしてすっかりさっぱりした俺、十数分前にこの扉の向こうへ消えた俺とは確かに違うんだからな!生まれ変わった、新しい俺!ネオ・俺!颯爽と風呂場を飛び出し、額や背中の水滴も拭うことなく、誰もいない家の中でその姿を誇示し、そして叫ぶのだ。



「……………さぶィ!!!」

…思えばそんな行為でしか「季節感」を感じることがない俺の日常。
 だが、先月は違った。晩秋から初冬への確かな季節の移ろいを、五感で感じることが出来た。

 11月29日。天候は目まぐるしく変わった。気温はとても低かった。ようやく晴れ間が射したな、と思うと、次の瞬間には太陽は厚い雲に覆われた。縁側に並べた作品も、どことなくくすんで見えた。結局、午後からは横殴りの雨。さっさと作品は片付け、囲炉裏ばたでまんじりともせず。
 11月30日。遂に迎えた最終日、千秋楽。前日の天候が嘘のような快晴。
 この一ヶ月間お世話になった「百姓屋」を磨き上げる。
「ドダダダダッ!」とまるで小学生のように雑巾がけをする私を見て、仲間の一人が笑いながら言った。
「一休…?」
「ハアアアアアアアアイ!!!」−応えながら、オッサンもう肩で息。我が体力は、どこぞの首相の支持率並みに下降の一途を辿っておるぞ…。
「これ一休、屏風の虎を捕らえてみよ」
「じゃあまず僕の肩こり・腰痛を治してください」…♪とんちんかんちんとんちんかんちん…アホなことを考えながら板の間は瞬く間にピカピカだ。すっかり気分は『ビフォーアフター』、朝の陽光が燦々と降り注ぐその間において、思わず独り言。
「…なんということでしょう………」

 前日もそうだったが、寒い日にはお世話になりまくった囲炉裏も磨き上げる。近年、暖炉はあるが囲炉裏の当たるのは久し振りで、仲間と身を寄せ合いながら飽きることなくぼんやりと火を眺め続けた日々。それももう今日でおしまい。ちょっと寂しい。
 最後はオモテの落ち葉を掃き清める。
 それにしても、掃き集めたばかりの落ち葉をいきなり吹き付けた北風に散らかされたり、こういう煩わしさも忘れかけていた。毎日の掃き掃除をメンドクサく思ったりもしたが、日毎に色づく紅葉は楽しみのひとつであった。

 最後はスタッフの皆さんと記念撮影。そしてまた、私は逆・ホームシック(帰りたくない病)に侵されるのだ。
 隣の窯元の曽根さんが、店の入り口に伸びる大きな木を見上げながら言った。
「私はね、このギンナンハゼが大好きなんよ。葉っぱが落ちたらホラ、可愛い実がなってるやろ?」

見上げる視線の向こうに、まるで耳かきの綿のように真っ白な実が、真っ青な冬の空に踊っていた。



…とこの日記、実は12月初旬に上げる予定でした。だが、この能古島編には後日談があってね……まあそれは次の機会に。ではまた。


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